アメリカには、自分が嫌われているのは自業自得であるという意識がない。むしろ博愛主義的に、現地の民衆に良いことをしたとさえ思っている。
そのような勘違いをしている一因は、日本にもある。アメリカは太平洋戦争で日本を軍国主義から解放し、そのおかげで戦後は素晴らしい民主主義国家になったと多くの日本人は信じている。
日本やドイツ、イタリアなどでの「民主主義化」の成功体験をいいことに、世界中でお節介を繰り返した結果、アメリカは自らの手で数多くの反米地域をつくり出した。身から出た錆である。
新しい地政学が示す日本が生き残る方法とは
アメリカも、本当は戦争に懲りている。ウクライナ支援のように、人を出さずに武器だけを渡して、軍需産業が儲かる形をつくれたらいいが、第3次世界大戦になればそうはいかなくなる。現在のイスラエルとハマスの戦いに、できれば巻き込まれたくないというのが多くのアメリカ人の本音である。
しかし、今年はタイミングが悪いことに米大統領選挙が控えている。トランプ前大統領は、バイデン大統領が慎重さを見せた途端執拗に批判する。トランプ氏は弁が立つので、次第に国民も煽られて、選挙戦が進むとともに「イランは許しがたい」という声が高まってくる。そして、背中を押されたバイデン大統領は、何か勇ましいことを言わざるをえなくなる。アメリカの国内政治を考慮しても、第3次世界大戦のリスクは高まっていると言える。
気になるのは、NATO加盟国の動きである。イギリスはアメリカに同調するだろうが、ヨーロッパは基本的に静観の構えだ。フランスはアメリカにイランを無視してほしいと考えている。
NATO加盟国で一番したたかなのはトルコだ。表立って反米的な動きはしないものの、国民の大半がイスラム教徒であるがゆえに、心情的にはイラン寄り。いずれにしても、NATO加盟国は親アメリカの一枚岩ではない。
一方、イランとしてはアメリカと対立関係にあるロシアや中国を自陣営に引き込みたいところだが、ロシアはウクライナとの戦争で疲弊していて余裕がない。中国も現時点でどこまでイランに肩入れするかは不透明である。
このような混沌とした国際情勢の中で、日本はどのような外交戦略をとるべきか。私は、現在のようにアメリカにべったりの姿勢は見直すべきだと思う。アメリカはアフガニスタンで、同盟国を見捨てて一目散に撤退した。急な撤退で、日本大使館の職員は脱出に相当苦労したと聞く。そのような薄情な国を、全面的に信頼するのは危険だ。
もともと日本はイランとの仲が悪くない。戦後、イギリスと抗争中のイランから出光興産が石油を輸入したり、高度経済成長期以降は多くの日本企業が首都テヘランに進出するなど、経済面での結びつきが強かった。三井物産などは、6000億円を超える投資で巨大なコンビナートを建設する計画を立てた。イラン革命でアメリカとイランの関係が悪化したあとは、日本もイラン制裁に加わらざるをえなかったが、現在でもイラン人の対日感情は悪くない。これ以上、アメリカに追従して日本がイランと関係を悪化させる必要はない。
他の国との関係も同じだ。ロシアのプーチン大統領は国際的に孤立して四面楚歌の状態だ。日本とロシアはいまだに平和条約を結んでいないが、今話を持ちかければロシアは高い確率で乗ってくるだろう。平和条約が締結できれば、ロシアの軍事的な脅威は減る。さらに、ロシアに急接近している北朝鮮も日本に手を出しにくくなるだろう。
また、中国とは2000年にわたる外交の歴史に基づいて仲良くすればいい。アメリカの子分として、日本が米中対立の矢面に立つ必要はない。
もちろんアメリカとも引き続き仲良くすればいい。しかしベッタリしすぎた結果、アメリカの敵まで自動的に日本の敵になる愚は避けたい。
世界は着実に第3次世界大戦へと進みつつあるが、危機だからこそ、はじめて現実感を持って考えられるという面もある。新しい地政学の中で、どのように振る舞うべきか。日本の外交関係を見直す契機としてもらいたい。