国内でも海外でも評価を下げているゼレンスキー大統領は、もう後がない。選挙せざるをえなくなって負けるか、米大統領に返り咲く可能性があるトランプ氏に「クビだ」と通告されるのか。いずれにしても、ゼレンスキー劇場は近いうちに終わるだろう。
ゼレンスキー大統領が辞任し、今後両国の停戦が合意するとしたら、当然ロシア側に譲歩した内容になる。あるいは、混乱に乗じてロシアがウクライナの首都キーウまで侵攻するシナリオも考えられる。いずれにしても、打たれ強かったロシアの粘り勝ちである。
ただ、粘り勝ちといっても、短期的・局地的な勝利にすぎない。長い目で見れば、ロシアはすでに負けている。
勝者なき戦争の悲劇的な末路とは
一番の敗北は、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟である。両国はロシアのウクライナ侵攻直後の22年5月にNATOへ加盟を申請。フィンランドは23年4月に加盟を承認され、スウェーデンも24年3月に続いた。
サンクトペテルブルク出身のプーチン大統領にとって、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟は痛恨の極みだ。サンクトペテルブルクはバルト海にそそぐネヴァ川の河口の街だ。バルト海はロシアにとって世界につながる玄関口で、軍事的にも特別な意味を持つ。しかし、最新鋭の潜水艦を持つスウェーデン、そしてよりロシアに近いフィンランドがNATOに加わったことで、この玄関口が閉ざされた。内陸でドネツク・ルガンスク両州を獲れても、これでは割に合わない。
また、西側諸国に経済制裁されたことで、ロシア経済の中国依存が進んだ。それ自体は直接的に害があるものではないが、かつての子分に依存するのは気分がいいものではない。今回の侵攻で、西側先進国への劣等感は多少解消されたかもしれないが、かわりに中国へのコンプレックスが膨らんでいる。兵器と兵員の不足を補うために北朝鮮にまで“お世話になる”有り様だ。
ロシアはウクライナとの戦いが終わったときに、プラス5点の成果を得るかもしれないが、その他のところでマイナス100点だ。差し引きすれば、敗戦である。戦争は例外なく悲惨なものだが、両方の当事者が敗戦国となる今回は、輪をかけて益がなかった。
領土を奪うという19世紀的発想は、崩壊後のソビエト連邦にとっては意味がない。奪った領土にくっついてくる人々の年金債務のほうが、新領主にとっては遙かに重い。領土を奪って破壊した都市を再建すると、年金・福祉などの債務が増える、というのが21世紀の現実なのだ。プーチンはそのことを自国での経験からよく知っているはずなのに、奪いたいウクライナを破壊している。正気の沙汰とは思えない。
日本は西側諸国の一員として、今後もウクライナ支援を続けるだろう。戦争の末路がわかってきた以上、物資の支援で戦火を拡大させずに、難民の受け入れなどお金をあまり使わない方向で存在感を発揮してほしいものだ。