政府や金融庁が新NISAを奨励していることで、これまで投資をしていなかった人も投資に手を出そうかという動きがある。しかし、経済ジャーナリストの荻原博子さんは「景気の指標を見ると、どう考えても今は投資を始めるタイミングではない。家計のお金を投資に回す前に、まずしておくべきことがある」という――。

実質賃金や日銀短観を見れば景気が良くなる兆しはない

新NISAがスタートして、投資に興味を持ち始めた人も多いのではないでしょうか。でも、話題になっているからといって安易に飛びついてはいけません。現在、Facebookなどに私の名前をかたる詐欺の広告が表示されていますが、まず、私が投資をおすすめしたり、投資方法についてアドバイスをするサロンを開いたりすることは、絶対にありません。

虚偽ではないにしても、新NISAをあおる人たちやそれに飛びつく人たちには、「今は投資を始めるのに適した環境ですか」と問いたいですね。

まず、今は景気がいいのかどうか考えてみてください。2024年4月現在、物価が上がっているのに賃金の上昇が追いつかず、実質賃金は23カ月連続マイナスです。そんな状況なので多くの人は家計を守ろうとモノを買わなくなっており、家計調査では、月額消費支出が12カ月連続でマイナスになるという深刻な状況に陥っています。

この先よくなっていく兆しもありません。「日銀短観」という、全国の企業を対象にしたアンケート結果を見ても、多くの企業はこの先の業績についてマイナスか横ばいが続くと考えています。この先、景気がよくなっていくかどうかについては個人も企業も疑心暗鬼になっているわけです。

円安の恩恵が国内に還元されることも期待できない

確かに円安でトヨタなどの輸出企業はもうかっていますが、そうした企業はほぼ現地生産の形をとっているため、日本国内での設備投資や雇用を増やしてはいません。もうかっている企業の利益が国内に還元されることはほぼないでしょう。

日経平均株価が4万円を超えたといっても、そのとき盛んに株を買っていたのは日銀と外国人です。特に外国人は、円安と株価上昇によってダブルでもうかるということで、ものすごい勢いで買いに入っていました。でも、その後の株価は鳴かず飛ばずの状態です。

なぜなら、2024年3月に日銀がマイナス金利解除を発表すると同時に「もう株を買わない」という趣旨のことをいったからです。これまで日銀と外国人で盛り上げてきた相場から日銀が抜けるわけですから、そりゃ買う気になっていた人たちの熱も冷めてしまいますよね。

日本の株価は、日銀の買い支えによって下値が安定してきました。外国人に人気があったのもそのためです。ただ、外国人は状況が悪化したらすぐに逃げますから、そこに頼っていては今後の株式市場がもちません。