「アカデミア」の倍率は数十倍から100倍も

研究者のキャリアパスには様々な道がありますが、ここでは典型的だと思われる、私も辿ってきた道をご紹介します。

大学を卒業後、大学院入試を経て大学院に進みました。大学院では2年間の修士課程において、行った研究を修士論文としてまとめて提出し、審査会を経て修士号の学位を取得します。

さらに研究を続けたい人は3年間の博士課程に進み、博士論文の提出と審査会を経て博士号の学位を得ます。この時点で27歳前後になります。

博士号取得後に民間の企業に就職する人もいますが、アカデミアを志望する人は「ポスドク」というポジションで転々としながら、任期のない助教や准教授、教授を目指すことになります。「ポスドク」とは博士号を取得したあとに、大学や研究所で正規のポストに就くことなく、研究職を続ける期限付きの研究者のこと。日本語では「博士研究員」と呼ばれます。

セミナーに出席する医療従事者
写真=iStock.com/kazuma seki
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ポスドクも助教や准教授、教授も、基本的には公募によって選ばれます。分野や条件によりますが、待遇の良い「ポスドク」公募の倍率は数十倍、助教や准教授、教授は100倍にも及ぶことがあります。

特に私の専門領域である理論物理学、中でも素粒子・原子核・宇宙理論の領域では公募数がかなり限られています。博士号を持つような能力を有する若手研究者が、その数少ない椅子を争うしかないことから、その過酷な道のりを想像いただければと思います。

最高クラスの待遇が月給36万円は高いか、安いか

研究者も人間なので生活があります。ここでは若手研究者の経済面について見ていきたいと思います。

大学院生は研究活動をしますが、学生なので授業料を支払う必要があります。国立の大学院の場合、国立大学と同様に入学金がおよそ28万円、授業料が年間約54万円です。

欧米では大学院生が給料を得ながら研究を行う制度が確立されていますが、日本ではそのような制度は一般的ではありません。そのため大学院生には、親から経済的な支援を受けたり、奨学金を借りたりすることで生活を維持している人が多くいます。

しかし、最近は日本でも、大学院生が経済的な自立を図りながら研究に専念できるような「支援制度」が用意されてきており、中でもフェローシップなどの給付型の奨学金制度では、自身の経歴や研究計画などを記した申請書による審査に通過した限られた学生は月15~20万円の収入を得ることができます。

この中で、アカデミアを志望する博士課程の学生は、最終年度に国内外の大学や研究機関の「ポスドク」公募に応募することになります。

ここで無事合格した後ですが、ポスドクの任期は通常2~3年です。そのため、任期が切れる最終年度になると「これに通らなければ、来年の仕事がないかもしれない……」という緊張感の中、本業の研究と並行して、次のポジションにエントリーするための書類を、数十枚、多い人で100枚近くも出します。このサイクルが、腰を落ち着けて研究や教育活動に専念できる任期なしのポジションに着くまで続きます。

日本では、大学の任期なしのポジションは年々削減されており、100倍以上にも及ぶ高倍率の選考を通過するまでこのサイクルがずっと続くのです。ポスドクの給料は、制度や予算などに依存して変わります。

目安は、国内のポスドクの月給は36万円(ボーナスなし、通勤・家賃・健康・育児介護等の手当無し)です。この待遇は、若手研究者にとって、競争に勝ち抜いた結果得られる最高クラスの待遇なのです。

研究者の就活では給与や待遇面を、事前に公開されないことが多く、合格をもらった後でも、こちらから頼み込まないと給与などの待遇を明かしてくれないということが多々あります。