Keeper技研 FV

株式上場は経営者にとってゴールではなく出発点だ。上場からおよそ10年にわたり、企業価値を伸ばし続けた経営者は何に注力してきたか、そして今後の10年で何を目指すのか。目線の先を語ってもらうPRESIDENT Growth連載【トップに聞く「上場10年」の成長戦略】。今回のゲストは、KeePer技研(2015年、東証マザーズ上場=現在は東証プライム市場、名証プレミア市場に上場)を創業した谷好通会長――。

全国に約7000ある「KeePer」の看板

クルマで移動する人は、各地で「KeePer」(運営会社はKeePer技研)の看板をよく見かけるのではないだろうか。

その理由は2つある。1つは同社が行う技術検定に合格したスタッフが在籍する施工店「キーパープロショップ」が全国に6686店(2025年8月1日現在)もあること。その大半がガソリンスタンド(GS)併設店だ。

もう1つが「キーパーラボ」という直営&FC(フランチャイズチェーン)店の存在だ。現在は165店(うち直営店138店:2025年12月現在)あり、500店構想を掲げて展開中。ちなみに海外は台湾(11店)と香港(10店)を中心に24店(2025年8月1日現在)を展開する。

同社を創業したのが谷好通(たに・よしみち)会長だ。高校在学中からGSでアルバイトを始め、半世紀後の現在もGS支援事業に携わる。どんな特徴を持つ会社なのか。

Keeper技研谷会長1
KeePer技研会長 谷 好通(Yoshimichi Tani)
1952年3月生まれ、愛知県大府市出身、名古屋市育ち。1971年名古屋市立桜台高校卒業。高校在学中からガソリンスタンド(GS)でアルバイトを始め、半世紀後の現在もGS支援事業に携わる。1985年8月株式会社タニ設立、1993年同社の事業を分離したアイ・タック技研(KeePer技研の前身)を設立して社長に。2019年から会長兼CEO(現任)。48歳から書き始めたブログは25年続けている。

持ち味は「技術のトレーニング」

「事業内容はそうですが、軸になるのはトレーニングです。当社独自のクルマをきれいにする“キーパーコーティング”は、ケミカル(剤)と技術があってはじめてきれいになります。

技術というのは、商品であるケミカルがあっての技術ですし。ケミカルは技術があってこそ商品としての特長が生きます。つまり相互関係にあるわけです。その技術を高める専用施設としてトレーニングセンターを設置して注力してきました。

今、トレーニングセンターは全国に22カ所あり、兼用まで入れると27カ所あります。

2024年は1年間で約6万3000人が受講しました。内訳はGSの人が約7割で、他に自動車販売会社の人、板金屋さんが中心です。トレーニングは利益が低いという声もありますが、そこは店舗が稼ぎます」(谷会長、以下同)

ここまでトレーニングを強調するのは、事業拡大を成し遂げた原動力でもあるからだ。

職人の属性に頼らず、技術を平準化した

その昔、「洗車」はGSでガソリンを満タンにすれば無料でやってくれるサービスだった。

「雨が降った翌日に晴れると給油と洗車を行うお客さんで、勤務していたGSがごった返すので、若い頃の私は晴れの日が嫌いでした」と谷氏は振り返る。

当時はガソリンの利益幅が大きく、洗車にかかる手間や費用を差し引いても採算が取れたので、多くのGSが差別化や集客の目玉として「洗車無料」を掲げた。洗車のついでにボンネットを開けて、有料のオイル交換やバッテリー点検の提案もできた時代だ。

洗車無料が消えたのには複数の理由がある。まずは消防法の改正で「セルフ式GS」が解禁されてGS側も多くの従業員を抱えなくなったこと。「1円でも安くガソリンを入れたい」と消費者意識が高まり価格競争が激化したこと。

さらに自動車の性能向上でオイル交換の寿命も延び、バッテリー交換時期もGS側の提案ではなく、標準搭載されたITシステムが知らせてくれるようになった。

こうした時代性を見据え、大切にクルマを維持したいニーズに応えたのが同社の「カーコーティング」だ。特筆されるのは「職人技のシステム化と平準化」をしたこと。

「30年以上前の1992年、私は1日置きに日帰りで横浜まで行き、塗装の研磨とポリマーコーティングという技術を学びました。技術の習得後、経営していたGSに洗車コーティングの店を開業。翌年には45分で最良の美装になる『Qシステム』を開発したのです」

売るのではなく、教えることが最強

この時代に開発したQシステムが、独自技術「ピュアキーパー」の原型となった。

同システムを使った洗車は来店客に大好評となり、1993年12月には全国の洗車売上コンクールで2位となる。業界で話題を呼び、各地から見学者が訪れた。そこで「ワンデースクール」を開設して手法を教えるようになり、ケミカルと道具の商品供給も始めた。

現在は1級や2級の検定や研修制度に進化したが、仕組みづくりは大変だったのではないか。

「そうでもないですよ。当社は専門家の手を借りずに自分たちでやるのもモットーです。全国にある看板のデザインもそうで、自分たちで行うからノウハウも蓄積されていきます」

谷氏がコーティング技術を習得した1990年代、教えてくれた『モービルクリーンベース横浜』(当時)の高木専務から言われた言葉がある。

「販売にしろ何にしろ、売るのではなく、教えることが最強だ」

この言葉を実践して販売だけでなく研修制度を充実させたのだ。技術を平準化すれば多店舗展開も可能で、拡大成長も期待できる。早くから株式上場も視野に入れていたのだろうか。

「あくまでも途中からで『上場すると優秀な人材が集まりますよ』と言われて目指したのです。当社が求めるのは店舗で顧客対応ができる人材で、本社にいる役職者は現場(店舗)から上がってきた人ばかりです」

主力事業は“誤算”から生まれた

谷氏は高校時代にアルバイトで始めたGSの仕事が面白くなり、卒業後もその仕事を続けて33歳でGSを運営する会社(株式会社タニ)を創業した。谷夫妻と従業員1人の3人でスタートしたGSはすぐに繁盛店となったが、やがて問題が起きる。

「当時の私は、自信満々の絶対君主のようでした。若い従業員が入っても長続きせず退職。相棒である妻に当たり散らした結果、妻の心労が重なって入院してしまったのです」

「今でも最大のターニングポイント」と話す谷氏は猛省した。

「妻も従業員も大切な仲間なのだと再認識し、高圧的な態度を改め、徐々に会社らしい会社になったと思います」

ちなみに夫人は回復し、現在は本社隣の中央トレーニングセンターに勤務している。

カーコーティング技術の習得は前述したが、事業のきっかけは「誤算」だった。

「1991年に2店舗目のGS用の土地を取得したら、法律(※)の関係でガソリンを販売できなかったのです。その対策としてカーコーティング事業を始めたらお客様に好評でした。年々洗車技術を高めていき、時代の変化にも対応することができました」

※かつて存在した「石油販売規制法」や行政による規制の一環。「GS店舗の総数を増やさない」(総量規制)ために、1店を開店するには、(地域も資本関係も問わない)どこか1店が閉店する必要があり、それがないとガソリン販売もできなかった。1年間の時限立法で1年を経過すればガソリン販売も認められた。

Keeper技研谷会長2

自己採点は「45点」、50点を超えない理由は?

同社の業績を見てみよう。2025年6月期決算は連結売上高「230億9300万円」(前期比12.2%増)、営業利益「70億9800万円」(同16.3%増)、経常利益「71億3100万円」(同17.4%増)と増収増益。

2026年6月期決算は連結売上高「263億円」(同13.9%増)、営業利益「80億円」(同12.7%増)、経常利益「80 億円」(同12.2%増)と、引き続き増収増益を見込む。

事業は順調に見えるが、創業者である会長の評価は厳しい。

「自己採点は45点です。50点になりそうでならない。50点になったら、100点を目指せると思うのですが、それぞれの事業が小さくまとまっているのが課題です。たとえばキーパーラボの店舗数が5年後に500店――近くにあれば便利というお客様ニーズに応える数字――が目安だと思っていますが、その決め手がまだ描けません」

クルマ社会の地方なら拡大可能ではなく、「顧客ニーズが高いのは東名阪」だという。

株価についてはどうか。本稿執筆時の株価は「3235円」(1月26日終値)、時価総額は「914億8900万円」(1月26日時点の仮数字)となっていた。

「ずいぶん下がったなと感じますが、株価は当社に対する期待の裏返しです。ご期待に応えられるよう、それぞれの事業をさらに強化していきます」

十数年続く、腕を競い合う技術大会

同社のカーコーティングは「美容師がお客さんの要望に応じて髪形や髪色を仕上げるのに似ている」という。現在の消費者意識をどう感じているのか。

「汚れを落とせれば十分な方は、今は機械の精度も高いので洗車機でいいと思います。当社は、クルマが好きで大切にしたいという客層の要望に対応しており、プロショップで働く従業員は『カーライフデザイナー』のような役割です。

若い世代と向き合うと、今は『自分が主人公でいたい』意識が強いのを感じます。お客様のクルマをきれいにして、喜んでいただけるのは自己実現にもつながると思います」

同社が目指してきたのは、谷会長の経験則から導き出された「結果と顧客の喜びの二乗の法則」だ。

・クルマが「1」のレベルできれいになる → お客様は「1」のレベルで喜ぶ
・クルマが「2」のレベルできれいになる → お客様は「4」のレベルで喜ぶ
・クルマが「4」のレベルできれいになる → お客様は「16」のレベルで喜ぶ

そうした付加価値を高めて「洗車を文化にする」ことを目指してきた。ここでいう「洗車」とは、「洗う」だけでなく「磨き、護る」「掃除する」も含めた施しだ。

「2014年に始まった『KeePer技術コンテスト』は、甲子園の高校野球のような盛り上がりで、2年前の予選は156回、5612人(2024年実績)が参加しました。各都道府県を勝ち抜いた王者が全国大会として中央トレーニングセンター(愛知県大府市)に集まり、2日間にわたり技術を競います。これまでの歴代チャンピオン9回のうち5回は女性です」

Keeper技研 提供写真
愛知県大府市の本社隣にある中央トレーニングセンター。「KeePer技術コンテスト」の予選を勝ち抜いた都道府県チャンピオンがこのセンターに集結し、「全日本チャンピオン決定戦」が行われる。(写真提供=KeePer技研)

逆風を追い風にしてきた

これまで同社はGSの減少やガソリンの価格競争といった、事業環境の向かい風も追い風に変えてきた。コロナ禍の外出自粛も、気分転換としてのリフレッシュ需要が発生し、キーパーコーティングの施工数は増加したという。

コーティング技術の応用で看板や船底の業務にも乗り出すが、主軸はクルマ回りだ。「クルマのEV化」や「シェアカー増加による保有台数減」という新たな風にも挑む。

自己採点keeper技研

(企業概要)
KeePer技研株式会社
・事業内容 カーコーティング材料、洗車用ケミカル、機器等の開発・製造・販売。
    「KeePer LABO」等の店舗運営
    「KeePer PRO SHOP」事業の運営・指導 など
・法人設立 1993年3月(アイ・タック技研株式会社)、株式会社タニは1985年8月
・資本金 11億8300万円(2025年3月末現在)
・連結売上高/経常利益 230億9300万円/71億3100万円(2025年6月期)
・連結従業員数 1331名=男性1065名、女性266名(2026年1月現在)
・本社所在地 愛知県大府市

(文=経済ジャーナリスト・高井尚之 撮影=石橋素幸)