お笑いコンビ・サバンナとして30年以上のキャリアを持ちながら、2024年に50歳で「1級ファイナンシャル・プランニング(FP)技能士」の資格を取得し、現在も複数の資格試験に挑戦し続ける八木真澄さん。新著『世界一ゆるい勉強法』には、従来の勉強法とは一線を画す独自のアプローチが詰まっている。忙しい人が勉強を習慣化するための仕組み、資格試験に挑戦することの意義、試験に臨む心構え……、今後のキャリアを模索するビジネスパーソンこそ参考にしたいその方法と哲学とは。
「仕事がきつければ勉強は緩く、仕事が緩ければ勉強はきつく」
FP1級を目指すにあたって、最初から「勉強法についての本を書こう」って思ってたんですよ。なんでかというと、子どもの頃、オリジナルの勉強法を模索して成功した体験があったからです。
僕、小学校 4 年生のときに学習塾の入塾テストで落ちてしまって、2回目のテストでやっと合格したんですけど、6年生になるまでずっと最下位やったんです。授業についていけなくて、集中力が続かないんですよね。それで、しばらく塾に行くのをやめて、家のコタツでテキストを自分のペースで解いたら、ぐっと成績が上がって中学受験に成功したっていう経験があるんです。このときに、大事なのは「いかに苦痛を感じずに継続できるか」ということやと感じたんです。
その記憶があったんで、「じゃあ、大人になった今、資格試験の勉強をしたらどんな心境になるんやろ?」 っていうのを、いっぺん冷静に分析してみようと思って、勉強しながら感じたことや、テスト前日の気持ちなんかを、毎日スマホにメモしてたんです。それが500項目以上になって、その中から96項目選んでできたのがこの『世界一ゆるい勉強法』という本です。だから、「勉強が苦手な人」や「チャレンジしてみたけど続かなかった」っていう人に、ぜひ読んでほしいですね。
サバンナ 八サバンナ 八木真澄著/KADOKAWA/本体価格1,600円+税
勉強の基本スタンスや生活への組み込み方、テクニックから、試験に対する心構え、FP1級合格のための具体的な方法まで、八木さん流の勉強法のエッセンスが楽しく理解できる一冊だ。
勉強しようと思っても、社会人の方は仕事があるから、決まった勉強時間を確保するのが難しいですよね。だから、「仕事がきつければ勉強は緩く、仕事が緩ければ勉強はきつく」という感じで「強度」を調整しながら、とにかく毎日続けて「習慣」にすることが大事だと思います。
「強度」っていうのは、「自分がそれをやり切るために必要なエネルギー量」のことです。筋トレなら、「ダンベルを10回やっと上げられるくらいの重さ」が最も筋肥大に効果的だし、ランニングなら「体脂肪が燃えやすい心拍数」ってありますよね。それと同じことです。自分の1日の強度を100として、例えば僕の場合なら、お笑いの仕事で50、トレーニングで20使ったとしたら、残りの30を勉強に充てられる。仕事が休みの日にはトレーニングで30、残りの70を勉強に使うことができます。毎日、この強度が100になるように調整するんです。
重要なのは、この強度のキャパシティーは、続けていくうちにデカなっていくということなんです。マラソンでも最初は1キロしか走れなかった人が、トレーニングしたら5キロ、10キロと走れるようになりますよね。これと同じで、勉強も続けていくうちに集中して取り組める時間が長くなっていくんです。FP1級の試験時間って、基礎編150分、応用編150分で合計5時間あるんですけど、僕は毎日勉強を続ける中で、この強度をどんどん上げていって、5時間分の強度を作ったんです。だから僕、今は、お笑いの打ち合わせとかしても5時間は全く疲れないんですよ。
すべてを機能させたらすべてがうまくいく
17歳のときから日記をつけていて、「自分がなりたい自分になるためにはどうすればいいか」について、ずっと研究し続けてたんです。で、20歳のときに読んだ本で「全機(編集部注:道元禅師の『正法眼蔵』に由来し、生死の現実をあるがままに受け入れ、今この瞬間を完全になりきって生きる「全機現(ぜんきげん)」の境地を表す禅語)」という考え方に出合って「これだ!」と思ったんです。僕なりに解釈すると「すべてを機能させたらすべてがうまいこといく」っていう考え方です。
冬のプールの水って濁ってるじゃないですか。何で濁るかというと、流れてないからなんですよ。僕の場合で言えば、「今日は勉強はしたけど、トレーニングはしなかった」というのは流れていない状態です。 仕事も、トレーニングも、勉強もやることで自分自身を全機させるっていうような状態に持っていくことが目的なんです。だから本当のことを言うと、資格試験に受かるとか受からないとか関係ないんですよ。
この本には「一日一生」という言葉も載っていて、これは「一日を一生のように大切に生きなさい」という意味ですけど、まさに、その日一日に全力を尽くすっていうことですね。毎日、全力を尽くしていれば、明日の自分は今日の自分より確実に進化してるはずですよね。だから、僕の人生を成長チャートにすると、17歳を起点に、51歳の現在まで「右肩上がり」の直線なんです。
でも、自分自身がイメージするこの直線の成長チャートと、世間が僕を評価するチャートは違うんですよ。世間のチャートには山谷があって、テレビにいっぱい出てるときは、僕が考える直線より上だと思われてる。僕自身は何も変わらず、ずっと同じことをやってるだけなんですけどね。世間は表面しか見てないんですよ。逆に、テレビに出なくなると下だと思われてる……こんなときはすごく不満なんです。不満っていうか、もどかしいんですよね。なぜなら自分の実力に対して低い評価しかされてないわけですから。その逆で、高く評価されてる状態のときは怖いんです。自分が実力以上に評価されてるっていうことなんで、もう自分が落ちるのがわかるんですよ。やっぱり、自分の思い描く直線と世間の評価が合ってるなと感じられる状態が、いちばん精神的に安定します。
資格試験があるから「20歳の気持ちに戻れる」
僕は、50歳からが人生の中で最も伸びる「チャンスゾーン」やと思ってるんです。特にサラリーマンは、30代ぐらいまでは、時間の使い方でも会社の都合や上司の都合に合わせる必要があって、自分で決められないじゃないですか。それが50歳ぐらいになって役職に就いたら自分でコントロールできる。この「自分でコントロールできる」っていうのがすごく大事なんです。だから、資格勉強するならキャリア後半の方が絶対に有利やと思うんですよ。
勉強でもなんでも、自分の興味のあることを、自分のペースでやるからこそ楽しいし、続けられるんです。だから僕、芸人として相方(高橋茂雄氏)とネタの稽古してるときは、めちゃくちゃ苦痛やったんです。もう地獄みたいな日々ですよ(笑)。なんでかって、ネタは相方が考えてるから、生活のリズムを全部相方に合わせることになるんです。僕は基本的に朝型で、毎日同じペースを繰り返したいんですけど、相方はイベントに合わせて稽古する感じで、しかも夜にやる、朝までやる、イベント前の一週間で詰め込む……10年間ぐらいはめちゃくちゃキツかったですね。30歳ぐらいまでは相方主導で“我慢の日々”でした。
僕は、世の中の人みんなが勉強家やと思ってるんです。例えば農業をやってる人は、種まきの技術やカラス除けの人形なんかを工夫してる。サラリーマンの人だって、ひとつの仕事をどうやったらもっとうまくできるか勉強して、工夫してる。別に資格を持ってる人が偉いわけじゃなくて、検定があるかどうかの違いだけなんですよね。
ただ、検定があるといいなと思うのは、「20歳の気持ちに戻れる」っていうことです。僕は10代の頃、極真空手をやっていて、20歳まではガチで試合に出てたんですけど、今、試験会場に行くと、あのときの気持ちを思い出すんですよ。朝、会場に着いたときには「よし、体調を仕上げて、逃げずにここまで来れた!」っていう気持ちになるし、5時間の闘いを終えた後は、「やり切った!」っていう気持ちで、ありえないぐらいの充実感に満たされるんです。50歳を過ぎてこんなワクワクした気持ちが味わえるのは、勉強してるおかげやと思います。
自分が挑戦する資格を選ぶときに、惑わされてほしくないのは、ネットとかにある、「資格の難易度ランキング」みたいな情報です。「何時間勉強したら受かります」とか、難易度がAとかAAとかってあるじゃないですか。あれ、ほんま全く当てにならないです。書いてる人が、その資格を全部取ってるっていうならわかるんですけど、そんなはずないですよね。だからほんまにあれ見て「これ簡単やな」とか「これむずいな」って判断するのはやめた方がいいです。
「試験に落ちたらどうしよう」とか、「点数が取れなかったら……」なんてプレッシャーを感じる必要はありません。落ちたらラッキーなんですよ。だって次にその試験に挑戦するときは5割ぐらいわかってるところからスタートできるんですから。重圧を感じると勉強がイヤになってしまいます。知らなかったことを知ればお得になる、勉強は心の冒険……そんなふうに思えたら、ワクワクしますよね。
(取材協力=サバンナ 八木真澄、構成=梅澤 聡、撮影=kuma*)