置き去りにされた“素人”は現行犯逮捕

葛岡は渡辺に2階で結束バンドで縛った娘の見張りをさせていたことを忘れていた。

強盗の“素人”の渡辺が置き去りにされたのだ。

「もう無理だ。いいから出せ!」

出せと言ったって、どこに……。

上野はあてもなく車を走らせた。サイレンの音が聞こえている。

置き去りにされた渡辺はその後、駆けつけた警官によって現行犯逮捕された。報酬100万円を約束され、東京・江戸川区から、わざわざ山口県までやってきたのにだ。

自損事故を起こし、警察官に自供

命からがら逃げ出した3人は車中で不満をぶつけあっていた。指示者であるルフィに抗議をしようにも「逃げてください」以外の指示はない。どうすればいいのか。

上野は目の前で起きた出来事に足が震えていた。自分が強盗未遂に加担したという現実。急に恐怖に襲われたのだ。

週刊SPA!編集部 特殊詐欺取材班の『「ルフィ」の子どもたち』(扶桑社新書)
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なんとか逃げなければ――。上野は広島方面に車を走らせた。

「捕まることはない」と言うルフィの無責任な言葉を思い出して怒りが込み上げてきた。

自分は騙されたのか……。

ガッタンッ!

中国自動車道を走行中に車が大きく揺れた。足の震えが収まっていなかったせいなのか、中央分離帯に接触する事故を起こしてしまった。なんと間の悪いことか。

しかも、車は動かなくなった。事故の目撃者が通報したのだろう、すぐに警官がやってきた。後部座席の男たちの視線が刺さる。「運転手さん、うまくごまかしてくれよ」。目がそう物語っている。その雰囲気に気圧されたのか、警官と話しているうちに、しどろもどろになってしまった。いつものようにノリでどうにかなる相手ではない。上野は聞かれてもいないことを語りだした。

「特殊詐欺の受け子をして、その後、強盗未遂をした帰りです」

急に話しだした上野に駆けつけた交通機動隊のほうが驚いた。

上野には強盗ができる度量はなかったのだ。

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