知名度では会社の優劣は測れない

このエピソードを思い出すと、小さな笑いがこみ上げてきてしまう。正直に言うと、台湾語の読み方のことさえなければ、私も「晶圓代工」より「鑄矽」と呼ぶ方がはるかにいいと思っている。

2021年のAPEC非公式首脳会議にビデオ通話で参加するモリス・チャン氏
2021年のAPEC非公式首脳会議にビデオ通話で参加するモリス・チャン氏(画像=總統府/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

ちなみに、「受託製造」は「低レベル」の同義語ではない。受託製造会社の多くは高い技術力を備えて確固たる地位を築き上げているし、TSMCはそうした受託製造企業の一つだ。むしろ、ブランドイメージや知名度では、その会社の優劣は測れない。有名でも技術力や粗利率の低い企業は、山のようにあるからだ。

TSMCのファウンドリーは、パソコンや携帯電話、パネルを生産する台湾のかつてのエレクトロニクス産業とは一線を画している。TSMCが確立したのは、最先端技術を備えた唯一無二の売り手市場だからだ。

台湾の受託メーカーの多くは、研究開発力や技術力が顧客より劣っている。台湾のネットワーク通信産業を例に挙げると、最大の経営リスクは同業他社との競争からではなく、自分の顧客から生まれている。

大口顧客はたいてい、受託企業よりも高い技術力を備えている。シグナル・インテグリティと放熱技術を例に挙げる。前者はデジタル信号の伝送品質を維持するための重要な技術で、後者は100Gや400G時代に突入するため、積極的に取り組む必要のある分野だ。

こうしたコア技術に対し、国際的なメーカーは台湾の受託業者よりもはるかに優れた開発チームを抱えているため、その気になればサプライヤーをいつでも取り替えて、別の業者を育てることができる。このことが、台湾の通信機器受託事業者にとって最大のリスクになっている。

そして彼らだけでなく、台湾の大部分の受託企業が同じ問題を抱えている。

TSMCの絶対的な強み

だが、TSMCは違う。TSMCはコア技術を自社で握っている。サムスンやインテルといった競合他社は、そもそも作れないか、作れたとしても良品率が低いため、TSMCに製造委託するしかない状態である。

アップルやエヌビディア〔主要製品はGPU(画像処理専用プロセッサ)で、高性能ゲームやビットコインの分野で需要が拡大〕、AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、主要製品はコンピューター、グラフィックス製品など)を始めとする大口顧客には、そもそもウエハーの製造に必要な設備も技術もないため〔こうした、工場(ファブ)や生産ラインを持たない企業をファブレス企業という〕、TSMCに供給してもらうしかない。

この点が、TSMCのファウンドリーの最大の強みである。