AIを制する企業が強くなっていく

アップルが失速している。2021年11月以来守っていた時価総額首位の座が、今年1月にマイクロソフトに奪われた。屋台骨であるiPhoneは勢いがなく、重要な市場である中国では1月の販売台数が前年同月比で39%減となるなど、売り上げの落ち込みがひどい。

株価低迷の原因は販売不振だけではない。何より大きいのは、iPhoneの次の一手が見えないことにある。ビッグテックといえども、次の成長戦略を描けなければ投資家から見放されるのだ。

アップルが次の一手として期待していたのは、電気自動車(EV)だった。しかし今年2月、約10年前から取り組んでいたEV開発計画の白紙撤回が発覚。「アップルカー」は幻と消えた。

アップルの自動運転のテスト車両(2023年5月撮影)。
アップルの自動運転のテスト車両(2023年5月撮影)。

ITメーカーであるアップルがEV開発に乗り出したのは、EVを「移動する大きなパソコン」と位置づけていたからだ。たしかにEVは、OTA(Over The Air:インターネット経由で車両のソフトウエアを更新する技術)に象徴されるように、IT技術の粋を集めたものだ。ただ、仮にアップルが高性能な自動車のソフトウエアの開発に成功しても、アップルカーが世に出たとは思えない。なぜなら、アップルはハードウエアをつくったことがないからだ。

iPhoneが世界のスマホ市場を席巻することができたのは、アップルの厳しい生産要求に低コストで応える鴻海ホンハイ精密工業というEMS(電子機器受託生産)企業の存在が大きい。

私の知る鴻海創業者のテリー・ゴウはiPhoneの新商品が発売する1カ月前になると、工場のある中国・成都に入って陣頭指揮を執る。あるとき「相談がある」と成都に呼ばれたが、私は台湾にいたので「台北なら」と答えると、彼は自家用機で台北に飛んできた。そして空港で私と会って相談を済ませると、2時間で成都にとんぼ返りした。アップルが設計するiPhoneを世界同時発売に合わせて大量生産するのは、トップが現場にべったり張りついていなければならないほど大変なのだ。

iPhoneは鴻海のおかげでうまくいった。しかしEVで鴻海と同レベルでやってくれる受託メーカーを見つけることは難しい。ここは自分でものづくりができない会社の弱点だ。