任せ上手だと思ったら勘違いに気づいた過去
人に仕事を任せたいが、自分でやったほうが早いのでためらってしまう――。そう考えたことがあるビジネスパーソンは多いでしょう。
とはいえ、私は21年前に妻と二人で会社を立ち上げたときから、躊躇することなく人に仕事を任せてきました。
理由は簡単。能力的に自分にできることが限られているからです。私は身の回りの細かい整理整頓が苦手です。RIZAPグループの前身である健康コーポレーションでは、創業当初に「豆乳クッキーダイエット」という商品がヒットしました。私は箱詰めや包装など、細やかさが必要な作業がヘタなので、それらの作業は妻の実家にお願いしました。社員や取引先が増えた後も、自分がパフォーマンスを発揮できない領域は積極的に人に任せていました。
自分でやったほうが早いし、クオリティも高いと考えている人は、自己評価が高すぎるのかもしれません。そのため、人に任せても足りないところばかりが気になってしまうのです。「自分はスーパーマンではない」と知っていれば、むしろ「補ってくれてありがとう」と、感謝の気持ちを持って人に任せられるはずです。
限界があるのは能力面だけではありません。働き方改革が進む今の時代、切実なのは時間の問題です。たとえ能力があっても、一日は24時間以上に増やせません。自分の時間が有限である以上、やはり人に任せざるをえません。
実は妻は何でも一生懸命やってしまうタイプでした。仕事を実家に任せても、心配になって自分も手伝いに行っていました。私としては、妻には自分が最も能力を発揮できる仕事に集中してほしかったのですが、頑張り屋なのでつい無理をしてしまうのです。
そんな妻が、ある日を境に実家の手伝いをピタッとやめました。妊娠がわかったからです。妻は自分の時間をすべて仕事に使えない現実に直面して、はじめて人に全面的に仕事を任せる覚悟ができたのでした。
妻が手伝いをやめた後に実家の作業が停滞したかといえば、そんなことはありませんでした。限られた時間の中で、自分がいなくても回る仕事は素直に人に任せたほうがいいのです。
躊躇なく人に仕事を任せる方針は、会社が上場し、経営が多角化していった後も変わりませんでした。なんなら、「自分は人に任せることが得意」「我が社は社員への権限委譲が進んでいる」と自慢げに語っていたくらいです。
しかし、私は甘かった。人にどんどん仕事を任せていたら、しだいに任せることの弊害が目立ってきたのです。
まず、全社で共通の認識を持てなくなりました。どのようなゴールを目指し、到達するまでにどのようなアプローチを取るのか。社員が少なかったうちは言わなくてもなんとなく共有できていたことが、中途で多様なキャリアの人が入社してくるにつれて曖昧になり、収拾がつかなくなっていきました。
手段も含めて自由にやらせると、任せた相手の実力がむき出しになって結果に反映されます。そこでいい結果が出ればいいのですが、数字が伴わず、苦しむ者もいました。