個人投資家・桶井道(おけい・どん)氏は、老後生活を支える「じぶん年金」をつくることを提唱している。現在51歳の桶井氏は、4年半前に会社を退職。現在は年間240万円の配当金で「じぶん年金」を確保し、自由な立場で、投資や執筆活動・両親の介護・見守りをする日々を送っている。20代から投資を学び、退職直前の40代後半で「じぶん年金」づくりに成功した桶井氏が推奨し、自らも実践してきた資産構築の戦略とは?
配当金こそが、老後の心強い存在になる
桶井氏が提唱する「じぶん年金」とは、公的年金とは別に、個別株やETFの配当金、分配金などによって第2の収入源を確保しようとする考え方だ。
とはいえ、インデックス型の投資信託(インデックスファンド)と異なり、個別株などへの投資はハードルが高いと感じる人も少なくないはずだ。老後は投資信託で増やした資産を取り崩して生活費にあてればよいと考える人もいるだろう。
しかし桶井氏は、配当金には精神的な安心感をもたらす効果があることを実感している。
「投資信託を取り崩すということは、毎月みずから投資信託を売却して、みずから自分の資産を減らしていくということ。これは精神的に辛いはずです。特に、暴落相場ではとてもキツイ。一方で、配当金は精神的な安心感を得られます。私は2020年のコロナショックで資産がどんどん目減りしていく中で、配当金の存在は非常に大きな心の支えとなりました。老後の生活においては、なおさら心強い存在になるはずです」
1973年生まれ。投資家(投資歴20数年)・物書き。2020年に47歳で資産1億円+年間配当(手取り・以下同)120万円とともに25年間勤務した会社を退職して自由になる。それから4年で資産1.8億円+年間配当250万円まで成長させる。投資先は日米を中心に世界の高配当株、増配株、ETF、リート、投資信託など幅広く100銘柄以上を持つ。現在は、両親の介護・見守りをしつつ、単行本や連載などを通じて投資に関する情報を発信している。著書に 『資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全』(PHP研究所)、 『普通の人のための投資 いちばん手軽で怖くない「ゆとり投資」入門』(東洋経済新報社)、 『時をかける貯金ゼロおじさん』(KADOKAWA)など。
X(旧Twitter):@okeydon
ブログ:おけいどんの適温生活と投資日記 https://okeydon.hatenablog.com/
(イラスト/西田ヒロコ)
まず、年率5%で投資信託を複利運用して5000万円を目指す
「じぶん年金」を実現するための投資の基本は、安定的な資産運用をベースとしつつ、積極的な投資手法も取り入れる「コア・サテライト戦略」だ。
「まずはコア投資として資産5000万円を目標に、投資信託を積み立てて購入しましょう。5000万円は大きな金額に感じられるかもしれませんが、非課税のNISA口座を活用し、インデックス型の投資信託に積立投資すれば、無理な金額ではありません。年月を味方にして、年率5%で複利運用ができれば、十分に到達可能です」
たとえば、毎月3万円の積立投資を行い、年率5%で複利運用した場合、41年7カ月後には約5013万円となる。同じ条件で毎月の投資額を10万円に増やした場合、22年7カ月後に約5000万円に到達する。長期を前提とした投資であれば、決して無理な目標ではないことから、桶井氏は「なるべく若いうちに投資を始めるべき」と強調する。
「多くの会社に分散投資が可能な投資信託で、長期にわたり積立を行い、複利で運用する。この『長期』『分散』『積立』『複利』という、投資に最適なしくみを一度設定してしまえば、あとは何もする必要がありません。毎月3~5万円の積立投資を20代で始めれば、定年前後には十分な老後資金を確保できるでしょう。さらに、投資信託への積立投資という“守り”の投資=コア投資だけでなく、個別株による“攻め”の投資=サテライト投資も組み合わせることで、『5000万円+α』の『じぶん年金』をつくることが可能になります」
サテライト投資は高配当株・増配株で
「5000万円+αの資産」を手にするために、安定的な投資をコアに、積極的な投資をサテライトとして取り入れて資産を増やす――これが桶井氏の提唱する投資戦略だ。だが、どの段階でサテライト投資を始めるべきなのか。
「投資信託に積立投資をしている期間に、個別株やETFといった金融商品の勉強をして、目標金額に到達してから積極的な投資(サテライト投資)を始めるのも一つの方法です。しかし、それでは初動が遅れて投資機会を逃すおそれがあり、経験不足のまま急にサテライト投資を始めて失敗するリスクもあります。できれば積立投資をしながら、ある程度の投資経験を積んだ段階でサテライト投資を開始するのがベストでしょう。コア投資でリスクを最小限に抑えつつ、サテライト投資でETFや高配当株、増配株などの配当金・分配金が出る商品、または株価上昇にフォーカスして成長株を少しずつ購入していくことで、投資能力を高めていきます。その経験の中から、“+α”の資産を得るための、自分に合った投資手法を学ぶことができるはずです。私はひと通りの投資を経験した結果、高配当株や増配株をメインにする『じぶん年金』にたどり着きました」
高配当株・増配株を選ぶ7つのポイント
「じぶん年金」をつくるには、配当金や分配金が得られる個別株やETFなどへの投資が欠かせない。とはいえ、個別株はハードルが高い。成長性があり、長期的に高配当や増配が見込める企業を見つけ出すのは容易ではない。桶井氏は、銘柄を見極める際のチェックポイントとして、以下の7項目を挙げる。
1. 市場が成長を見込める分野か?
市場が成長する → 企業が供給を増やす → 業績が上がる → 株価が上がり配当が増える、というサイクルが理想的。衰退する分野に投資すると、この逆のパターンに陥る。
2. 業界での立ち位置は?
業界1位か2位の企業に投資すべき。わざわざ下位の企業を狙う理由はない。ただし、ニッチ市場でしっかりと稼いでいる企業ならば投資する価値がある。
3. 業績は?
増収増益、つまり売上高が増加し、営業利益も拡大していることが必須条件。業種によるが、営業利益率が、外国企業なら20%以上、日本企業なら10%以上あれば、業績は良好と判断できる。
4. ビジネスの内容は?
その企業がどのような製品やサービスで収益を上げているかを把握する。簡単に模倣されるようなビジネスではなく、技術力やブランド力を持っていることが重要。
5. 株価は上昇トレンドか?
株価を5年チャート、10年チャートで確認。複雑なチャート分析は不要で、上昇トレンドか下降トレンドかを見極めるだけで十分。
6. 配当の分析
配当利回り、連続増配年数、減配の有無を確認。現在の配当利回りが低くても、連続増配によって簿価に対する配当利回りが上がっていくのであれば、投資対象として良いと判断。連続増配年数は長いほど好ましく、減配を繰り返す銘柄は避けるべき。
7. 不祥事の有無
過去に不祥事を起こしていないかを確認。不祥事は繰り返される傾向があり、そのたびに株価が大きく下落する可能性がある。
投資は早く始めるほど再現性が高くなる
配当金や分配金で定期的、自動的にお金が入るようになれば、生涯、お金に悩まされることがなくなる。
「個別株の配当金+ETFの分配金(じぶん年金)>生活費の体制を築くことができれば、取り崩しが発生しません。自分で個別株やETFを売って資産額を減らさなくていいのはとてもラクです。老後は、配当金や分配金を生活費にあてるつもりです」
そのためにも、できるだけ若いうちから投資を始めることを桶井氏は勧める。
「投資期間を長く取れれば取れるほど、再現性が高くなります。50代、60代と先送りすればするほど、種銭をたくさん用意しなくてはなりません。毎月、積立投資するのが難しいと感じるなら、賞与や年末調整の還付金も含めるとハードルが下がると思います。投資を始めるのが早ければ早いほど、毎月積み立てるお金は少なくて済みます」