ワンマン社長はリスク? ESG投資の会社選びのコツ

オルカンやS&P500などのインデックスファンドが人気だ。だが、フランスの独立系資産運用会社コムジェストのフランツ・ワイスさんは「長期投資では、もっと投資先企業の成長性に目を向けた商品を選んでみてほしい。長期的にリスクを最小化し、利益を最大化するうえで、『ESG投資』は非常に理にかなっている」と言う――。その真意とは。

市場は「反ESG」一辺倒ではない

アメリカや欧州で、気候変動や多様性への取り組み、法令順守などの非財務情報を考慮したESG(環境・社会・ガバナンス)投資に逆風が吹いている。米国のトランプ大統領は、パリ協定から離脱し、化石燃料の生産に前向きであるほか、DEI(多様性、公平性、包括性)の流れにも否定的。欧州でも、急速な気候変動対策への反発などから、反ESGの動きが出てきている。

40年以上前からESGの評価を投資先選定のプロセスに織り込んできた、フランスの独立系資産運用会社、コムジェスト エス・エーのチーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)兼マネージング・ディレクター、フランツ・ワイスさんは、「残念ながら、確かに米国の一部の州では反ESG的な動きがあります。でも私が見る限りでは、『ESG離れ』はそれほど広がっていないように感じます。引き続きESG投資を支持している人は多いのです」と語る。

投資情報会社モーニングスターのESG投資レポートによると、2025年の第1四半期(1月~3月)には、米国・欧州ともに純資金流出がふくらみ、118億ドルの資金が流出超過になったが、第2四半期(4月~6月)には一転し、49億ドルの流入超過になっている。同レポートによると、米国では流出が続いているが、欧州からのESG投資への流入は大幅に増加しているという。

こうしたデータを見ても、市場の動きは「反ESG」一辺倒ではなさそうだ。

ワイスさんは「我々が運用するファンドからも、資金は流出していません。『私たちは、イデオロギー的な理由からESG投資をしているわけではない。長期的にリスクを最小化し、利益を最大化するうえで、ESG投資が理にかなっているからそうしているのだ』と丁寧に説明すると、ほとんどの投資家はロジックに判断し、納得してくれます」と話す。

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コムジェスト エス・エーのチーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)兼マネージング・ディレクターのフランツ・ワイスさん。

財務情報だけでは企業の将来性はわからない

ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance、法令順守や健全な企業経営を行うための管理体制)などの非財務情報を考慮に入れて投資対象を選ぶ投資を指す。類似した考え方を持つ投資は古くからあったが、2006年に国連が「責任投資原則」(PRI)を提唱したことをきっかけに認知が広がり、日本でも2015年に、世界最大の公的年金基金GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が署名したことで関心が集まった。

ワイスさんは、財務情報は企業の過去の実績を表す情報であり、将来性や成長性を表す指標としては不十分だと指摘したうえでこう語る。

「短期的な売買で一気に利益を得ようとする、投機や短期投資であれば、ESGは重要ではないかもしれません。しかし、長期投資の場合は、将来的なリスクや持続性、成長性が重要です。ESG投資で重視している非財務情報は、まさにここに関わっています」

ESG投資における判断の条件とは

では、ESG投資とは具体的に、どんな企業に投資し、どんな企業への投資を控えるものなのだろうか。

「私たちは例えば、CEOが強い力を持ちすぎており、誤った判断に対して歯止めになる役員がおらず、ガバナンスが効かない企業は、もしこれまで成長していたとしても、長期的には大きなリスクがあると判断して投資を見送ります」とワイスさんは語る。

「非財務指標」は、環境、社会、ガバナンスだけにとどまらない。「優秀な人材を採用できているか、育成できているか、モチベーションを維持し、離脱を防ぐことができているか。我々はこうした点も調査し、投資判断の条件にしています。これらはすべて、企業が継続的に生産性を高め、成長機会を捉えられるか、リスク要因を迅速に把握して対応する力があるかに関係します」

ESG投資は、持続的で高い利益成長の確度を高めるうえで非常に合理的だとワイスさんは主張する。

「例えば、我々は石油会社への投資は行っていませんが、それはE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)が理由ではありません。単に、原油価格の変動があまりにも激しく、予測が困難なため、企業の将来性や成長性に確信が持てないからです。もちろん、二酸化炭素の排出量削減のためにESG投資を選ぶ人もいますが、私たちの目標はあくまでも、長期投資のリターンを最大化することです」

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ワイスさんが重視するのは、景気環境に影響されにくく、安定して相対的に高い成長率の持続が見込める「クオリティグロース企業」だ。

非財務指標に目を向け、継続的な成長性のある企業を見極める

コムジェストは1985年の設立以来、「持続可能な利益成長が見込める、質の高い成長企業に長期的な投資を行う“クオリティグロース”」を目指し、責任投資、ESG投資を重視してきたという。2010年からはESGを専門とするアナリストの採用を始め、2013年にはESGチームを設置するなど、運用の中にESGアプローチを組み込んできた。

その結果、コムジェストの主要なファンドは、長期的に過去年率2桁のリターンを実績として出しており、市場平均を上回るパフォーマンスを出している。しかし、その実績に対してESG観点がどれくらい寄与しているか、数値で示すことは難しいという。「企業の長期的な成長を見るうえで、ESGの観点は不可欠ですが、実際の投資はESGだけでなく幅広い非財務指標を見て、経験を積んだアナリストらが成長性を判断して行うので、そこからESGだけを切り離してその投資効果を測ることは不可能」(ワイスさん)だからだ。

しかし、特に近年のように、地政学リスクが高まり、先が見えない時代だからこそ、長期投資にはESGのような非財務指標に目を向け、本当に継続的な成長性のある企業を見極めることが重要だとワイスさんは説く。

自分のお金の行き先を選べない「インデックスファンド」偏重に疑問

現在日本では、新NISAをきっかけに投資を始めた個人投資家が増えており、オルカンやS&P500など、指数に連動した運用成果を目指す「インデックスファンド」に注目が集まっているが、これに対して、ワイスさんは疑問を投げかける。

「インデックスファンドは、対象となる指数に組み入れられている銘柄を運用するだけなので、手数料は低いかもしれませんが、自分がどんな銘柄(企業)に投資しているかコントロールできません。それでいいのでしょうか? もちろん、インデックスファンドは安定していますし手数料も低く抑えられていて、投資初心者には良いかもしれません。しかし、個人投資家の皆さんには、もっと自分のお金がどこに投資されているのか、興味を持ってほしい。ぜひ、『そのファンドはどんな哲学で投資先を選定しているのか』『本当に継続的な成長性のある企業が選ばれているのか』といった観点でファンドを選んでみてほしい」。ワイスさんはそう強調している。

(構成=大井明子、写真=黒坂明美)