「富裕層専門の税理士」として30年、1000万枚に及ぶ領収書を見てきた森田貴子さんが見つけたのは、「富を築く人」と「富が続く人」は必ずしも一致しない、という真理だった。億万長者になるためのカギは、稼ぎ方でも投資術でもなく、「支出の哲学」にある。富裕層のリアルなお金の使い方から、私たちが学ぶべきことを聞いた。
お金の使い方は「人生観」を映し出す鏡
お金の「稼ぎ方」や「投資」「節約」を説く書籍は数多い。しかし「お金の使い方」についてはどうだろう。とりわけ「支出の哲学」にまで踏み込んだものは少ないのではないだろうか。
著者である森田貴子さんは「富裕層専門の税理士」として、プライベートエクイティファンドの経営陣や創業家など数多くの富裕層を顧客に持ち、相続・所得税対策に携わってきた。30年の実務経験の中で、ありとあらゆる領収書を見てきたという。その数、実に1000万枚というから驚きだ。その経験の中で「富を“築く”人と富が“続く”人は一致しない」ということを実感したという。
「純資産1億円を超える富裕層から100億円を超える超富裕層まで、彼らのリアルなお金の使い方を間近で見てきました。個人の確定申告書や相続の申告書にも関わっているので、事業経費だけでなく日々の生活費まで含んだあらゆる領収書一枚一枚に目を通します。そこで気づいたのは、お金の使い方はその人の価値観や人生観を映し出す鏡だということです。さらには、『お金持ちになる』ことより、『お金持ちであり続ける』ことのほうがはるかに難しい。そして、富が続く人は例外なく『このお金はいったい何を生み出し、何を育てるのか?』と考えながら、お金を使っています」と話す。それが以下の8つの項目だ。
<富裕層に共通する8つのストック支出>
① 価値のある体験か?
② 継続的な学びにお金を使っているか?
③ 体の健康に資するか?
④ 心の健康に資するか?
⑤ 家族を大切にするお金か?
⑥ つながりを大切にするお金か?
⑦ 社会貢献か?
⑧ 投資として価値があるものか?
森田さんは、テスラが2010年に日本で最初に発売した、たった12台の電気自動車を購入した富裕層を複数知っているという。当時の価格で1800万円超の高級車だが、周囲に見せつけるような「見栄」のために購入したのではない。「テスラの電気自動車という『未来のテクノロジーを体験』するための投資」と森田さんは指摘する。
また、ある起業家は、地域の子ども食堂やお祭り、美術館、史料館などの活動をスポンサーとなって支援しているという。このように、「未来の自分に役立つもの、あるいは社会へ貢献、還元することによって、最終的に国や地域、企業や家族にも循環するように(何らかの利益や恩恵、幸福感が)戻ってくる、そのような感覚をお持ちの方が多い」と森田さんは続ける。
この8つの支出のうち、何をより重視するかは人によって違うが、森田さんが見てきた限り偏愛をもちながらも、ライフステージによって「富が続く人は、この8つすべてにバランスよくお金を使っている」と語る。
「上に挙げた支出は、今すぐ自分に利益をもたらしてくれるものではありません。しかし、時間がたったときに自分自身の生き方を支えてくれる目に見えない無形の資産となります。私は、それを『見えない自分資産®』と呼んでいます。そしてその見えない自分資産をつくるお金の使い方が『ストック支出』です。遊興目的や生活費など使った瞬間に消えていく『フロー支出』ではなく、経験や成長、思い出として蓄積されるストック支出を多く選択していくこと。それこそが富が続く人の支出の特長なのです」
富が続く人と続かない人は「財産シート」が違う
森田さんが「富が続く人とそうでない人の一番の違い」として挙げるのが、以下の自分の「財産シート」だ。
「財産には、大きく分けてモノやカネといった『有形資産』と、スキルや知識、信用、健康などの『無形資産』の2つがあります。富が続く人は無形資産(=ストック支出から生み出された資産)が非常に多く、富が長く続かない人は無形資産が極端に少ないという対照的な姿をたくさん見てきました」と説明する。
つまり富が続く富裕層の「支出哲学」は、人生において替えの利かない、価値のある自分や家族に支出を振り分けることと言えるだろう。
「会社員脳」を脱却し、資産の質を見極めよう
ただ、読者の多くは日々会社員として忙しく働き、富裕層なんて、自分には縁遠い話だと思うかもしれない。しかし、森田さんは「こうした財産シートの発想は、誰にとっても役にたちます」と話す。 確かに富裕層は起業家が多い。一方、その仕事は幅広く、並大抵の苦労ではない。森田さんは、会社員であることのメリットは享受しつつ、毎月入ってくるお金を「また入ってくるもの」と考え、生活費や遊ぶお金になんとなく使ってしまう「会社員脳」を脱却し、今いる環境を生かして成果を出すことを推奨する。
「仕事に主体的に取り組み、視点を高くもって経営の観点から自らの仕事の意味を考えることは可能でしょう。経営の視点が身につけば、上記の財産シートの意味が身に染みてわかってくるはず。日々の楽しみや一時の快楽のためにフロー支出を増やすのではなく、資産の中でもとりわけ無形資産を増やす感覚を身につけるのです。そしてそれは収入の少ない時代からでも可能です」
自分の人生を望むように生きるために
森田さんは、誰もが実践できる富裕層の支出哲学のエッセンスを「ファイナンシャル・ウェルビーイング」とし、それを世の中に向けて提唱している。
「私ももともと節約があまり得意ではなく、フロー支出も少なくはありませんでした。でも、親が商売をしていたこともあり、経営者の生き方や帝王学などの哲学には昔から興味はあったのです。それもあって税理士の仕事を選び経営者を支えたいと思いました。そして起業家である富裕層のお金の使い方に触れ、今は稼ぎ方や守り方よりも、自己の資産の中身をよく精査しながら『整える』ということを大切にしています。経済的自立と心身の健康をベースに、土台があるからこそ自分の人生を望むように生きる『選択の自由』がある、そんなファイナンシャル・ウェルビーイングを目指しています」
(取材協力=森田貴子、構成=田中裕康)