2023年は歴史に残る記録的不漁だった

そもそも富山県のホタルイカは、年によって豊漁・不漁の波が大きく、毎年3~6月までの漁期中に「たくさん獲れていたのに、急にぱったり獲れなくなることもある魚種」と同研究所の専門家も悩ますほど、未解明な点が多い。

これまで十数年の水揚げ量をみても、2013年に約2500トンだったかと思えば、5年後の18年にはおよそ700トンに落ち込み、その後も増えたり減ったりと不安定。昨年2023年はわずか418トンと、データが残る1953年以来、過去最低の水揚げで終漁。それだけに、今年のスタートダッシュは過去にないほどの大漁で、今後の漁にも大きな期待を寄せる向きが多い。

富山県のホタルイカ水揚げ量のグラフ
富山県農林水産総合技術センター水産研究所のデータを基に作成

同研究所が3月1日に発表した「令和6年ホタルイカ漁況の見通し」によると、今シーズンの県内の漁獲量は2238トンと過去10年間の平均値(1261トン)を大幅に上回ると予想。豊漁の目安とされる2000トン以上の水揚げが期待できると分析している。

前述の通り、すでに今年の3月に1153トンの水揚げがあり、シーズン予想値の半分以上を稼いでいるわけだが、「4月も順調に漁獲されている」(富山県の漁業関係者)といい、予想を大幅に超える大豊漁となる可能性もありそうだ。

ボイルせず冷凍したホタルイカ
写真=筆者提供
ボイルせず冷凍した状態で出回る富山県産ホタルイカ

今年は富山湾への回遊に適した海況

昨年の大不漁から一転、富山湾でたくさん獲れているのはなぜか。同研究所によると、確かな要因はわからないとしながらも「日本海を回遊する群れが大きいことに加え、海流や水温といった海況条件が湾への流入に適しているのではないか」とみる。

ホタルイカが日本海を回遊しても、富山湾へ入ってこなければ県内の漁獲は上がらない。昨年はそうした状況が顕著で、過去最少の水揚げに終わってしまった。湾への流入が極端に少なかったのに対し、日本海への回遊はあったため、兵庫県ではそれなりに漁獲され、東京などでも旬の味覚を味わうことができた。

ホタルイカといえば富山県が有名だが、実は水揚げ日本一は兵庫県。香住港や浜坂港といった但馬地区で、富山県以上の生産がある。なぜ富山県産が有名なのかといえば、漁業者だけでなく、一般の人も楽しませる沿岸での幻想的な風景が観光資源となっているためであろう。

富山湾に入ったホタルイカは、産卵のために岸に寄ってくる群れが、夜間に青い光を放ちながら一部は浜辺に打ち上げられる。この「身投げ」と呼ばれる光景が、春の風物詩となっており、観光客向けの見学ツアーも人気となっている。