4月25日から参議院法務委員会で審議が開始された共同親権を巡り、オンライン署名「#STOP共同親権」は22万人以上の署名を集めるほど、反対意見の声が大きくなっており、日々その数が増えている。

先月筆者が滞在したハンガリーは、多くの国と同様に離婚後に単独・共同親権が選べるが、共同親権の形をとっていても、子どもと同居し、子育ての責任をもつ母親が圧倒的多数だという。実際に、中央ヨーロッパ諸国、イタリアやオーストリアは、子どもと月に16~20日暮らし、生活の責任を単独の親がもつ割合が95%以上を占める。

ほとんどの離婚で、母親が子どもと同居をし、日常の面倒を見る点では、ハンガリーも日本と同じである。だが、両国には大きな違いがある。

それは、子どもの養育費受領率だ。ハンガリーは75%以上と、日本の28%の2.7倍もあるのだ。この違いはどこにあるのか。ハンガリーでの取材をもとに考えたい。

75%の子どもが養育費を受け取っていたハンガリー

根本的な違いは、ハンガリー政府は2010年以降、包括的な家族政策を通して、「ひとり親の困難や貧困」に対する理解を社会に広めてきたことにある。

ハンガリー初・ひとり親支援NGO「Single Parents’ Centre(シングルペアレンツセンター)」の創設者のノッジ・アンナ氏によると、彼女がひとり親支援を始めた2000年代初頭は、「ひとり親は社会で透明な存在」だったという。離婚やシングルペアレンツに対するスティグマ(偏見・差別)があり、ひとり親が抱く困難や貧困に、政府も国民も目をつぶっていた。

ひとり親支援NGO「Single Parents’ Centre」創設者、ノッジ・アンナさん
撮影=此花わか
ひとり親支援NGO「Single Parents’ Centre」創設者、ノッジ・アンナさん

だが、ノッジ氏などの活動家やグローバリゼーションの影響で少しずつ社会意識が変わっていき、2010年頃からハンガリー政府は積極的にひとり親世帯の支援に関わるようになった。

政府がNGOに出資し、「ひとり親の困難と貧困」への社会理解を深めた

ハンガリー政府は様々な非営利団体に出資しており、「シングルペアレンツセンター」もその一つだ。このセンターは法的支援、心理カウンセリング、職業訓練、就職支援、子どもに対する無料の眼鏡、障がい者支援、子どもの預かりから親子のアクティビティなど、ひとり親世帯のために70ものサービスを提供している。日本でこのように政府が出資した大規模なセンターは珍しいのではないか。

「シングルペアレンツセンター」はインテリアも凝っており、明るく気持ちのよい空間だ。筆者が3月に訪れた際はちょうどイースター休暇中で、30人もの児童が遠足からセンターに帰ってきたばかりだった。1週間で合計5ユーロ(825円)を払えば、子どもたちは資格をもった教師の元でランチ付きの各種アクティビティを楽しめる。

日本では、ハンガリーの住宅ローンや所得税の免除といった家族政策ばかりが注目されているが、ひとり親世帯への支援も家族政策の一部なのである。

このように、長年ハンガリー政府と民間団体がタッグを組んで「ひとり親の困難や貧困」の社会意識の変化に取り組んで来た結果、「同居や別居、親権の有無に関わらず、養育は両親の責任である」という社会認識が定着した。

だから2016年の調査では、75%の子どもたちが養育費を別居親から受領していたのである。最新の調査はないが、「2022年に新しい2つの法律により、養育費の受領率は75%以上になっているはず」とノッジ氏は言う。