日本経済新聞社の記者として40年以上にわたり市場を見つめ分析し続けてきた“マエダ先生”こと前田昌孝さんが、投資の基本から最新の市場動向まで平易に解き明かします。ビジネスや投資に生かせる「本質を見抜く眼」を養いましょう。連載第5回は「オルカンブーム」に着目します。
1日300億円増! 13兆円を超えたオルカン熱狂の現在地
「オルカン」と呼ばれる投資信託が大人気を博し、運用資産の総額が2026年7月7日に13兆円を突破した。2月9日に10兆円を突破したばかりだから、1営業日当たり300億円のペースで膨らんでいる計算だ。日銀が大量に買った上場投信(ETF)を除くと、個人の資金を集めて運用する日本の公募投信として最大規模となった。
株式投信全体の元本ベースの資金流入額は1~6月の累計で11兆9993億円だったが、「オルカン」だけでこの約5分の1に当たる2兆2502億円を占めている。この投信の正式名は「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」で、三菱UFJアセットマネジメントが設定・運用している。お化け商品になったといっていいだろう。
2024年1月に少額投資非課税制度(NISA)が大型化したとき、「オルカン」と米国の株価指数S&P500に連動するインデックス投信のどちらを積み立て投資の対象として選ぶべきか、話題を呼んだ。それから2026年7月末までの2年7カ月。オルカンの基準価額は年率23.86%で上昇した。また、この基準価額の振れ幅を示す標準偏差は14.15%だった。
一方、S&P500に連動する投信の基準価額は年率24.49%で上昇し、その標準偏差は16.29%だった。S&P500連動投信のほうがリターンは大きかったが、振れ幅、言い換えればリスクも大きかったことを示している。
ところで、ある金融商品に毎月末に1万円ずつ積み立て投資をすると、30年間(360カ月間)で累計360万円を投じることになる。もしこの金融商品のリターンが年率10%だったとすると、30年後の資産の時価評価額、つまり、元利金は2062万8433円になる計算だ。
ここで生成AI(Gemini)を使って試算してみよう。まずオルカン。「年率リターン23.86%、標準偏差14.15%の金融商品に毎月末に1万円ずつの積み立て投資をして30年後の元利金が2062万8433円以上になる確率は」と質問すると、やや時間をおいて90.4%という回答が返ってきた。
次にS&P 500連動投信。「年率リターン24.49%、標準偏差16.29%の金融商品に毎月末に1万円ずつの積み立て投資をして30年後の元利金が2062万8433円以上になる確率は」と質問すると、答えは89.8%だった。やはり両者は甲乙つけがたいのか。
安心は禁物! 「9割成功」のシナリオも長期で見ると……
ただ、「どちらにしても約9割の確率で資産が2000万円超になる」などと安心するのは早い。この計算で使った年率リターンと標準偏差は過去2年7カ月の実績にすぎない。オルカンが設定された2018年10月末からの7年9カ月間の基準価額の上昇率は年率18.47%、標準偏差は15.99%と、より高リスク・低リターンである。
この数値を使って改めて生成AIに「年率リターン18.47%、標準偏差15.99%の金融商品に毎月末に1万円ずつの積み立て投資をして30年後の元利金が2062万8433円以上になる確率は」と質問すると、48.6%という答えが返ってくる。うーんほぼ半々か。
まだ安心はできない。オルカンが連動を目指しているMSCI全世界株指数(配当込み、円ベース)の1987年末以降の上昇率は年率10.77%、その標準偏差は17.11%である。過去の実績の延長線上に未来があるわけではないが、長期的に考えると、値動きの振れ幅は大きくなり、リターンは落ち着く可能性もあるのだ。
生成AIに「年率リターン10.77%、標準偏差17.11%の金融商品に毎月末に1万円ずつの積み立て投資をして30年後の元利金が2062万8433円以上になる確率は」と聞いた場合の答えは16.1%にとどまってしまう。
この全世界株指数の上昇率ですら、世界の名目国内総生産(GDP)の年平均成長率の約5%を大幅に上回っている。直近数年の「年率20%超え」という極めて高い上昇ペースが今後も続く前提で資金計画を立てるのは大きなリスクが伴う。オルカンへの積み立て投資は資産形成の選択肢として悪いわけではないが、過剰期待は禁物である。
※本稿は、自著新刊『あぶないオルカン』(宝島社新書、2026年7月10日刊行)に掲載のデータを最新情報に更新し、あらたに執筆したものです。
(文=前田昌孝)