日本経済新聞社の記者として40年以上にわたり市場を見つめ分析し続けてきた“マエダ先生”こと前田昌孝さんが、投資の基本から最新の市場動向まで平易に解き明かします。ビジネスや投資に生かせる「本質を見抜く眼」を養いましょう。連載第6回は「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」に着目し、考えます。
四半期で過去最高益24兆円超! 「超大型ファンド」GPIFの真の実力
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が8月7日に発表した2026年4~6月期の運用収益が24兆895億円のプラスと、四半期の収益額としては過去最高になった。2025年度の運用収益も41兆3995億円と過去2番目の好成績だったという。個人投資家がGPIFの運用戦略から学べることはあるのだろうか。
新聞などで報道されるのはもっぱら収益額の大きさで、実際、将来の年金給付の原資になる年金積立金の運用が好調なことは、国民にとって大きな安心材料になる。振り返れば、GPIFが株式などのリスクを大きくとる運用に乗り出したのは、約12年前の2014年10月末のことだった。
当時、安倍晋三政権下での株式相場の上昇基調が途切れていたため、市場関係者はGPIFの株式運用の拡大に大きな期待を寄せていた。その一方で米国社会保障基金が米国債だけで運用していることを例に引き、高リスクだと反対する声もあった。
2014年10月末の運用資産額は約130兆円だった。2026年6月末には2.4倍強の317兆7596億円に膨らんだから、年率の収益率は約8%になる。制度上の運用目標は名目賃金上昇率を1.9%(2024年度までは1.7%)上回ることとされているから、十分に達成し、お釣りが出ているともいえるだろう。
好成績は大いに歓迎できることだが、機関投資家として考えた場合は、幸運だったのか努力の産物かは分けて考える必要がある。株価指数や債券指数が上昇しているのならば、好成績は自然であるともいえ、努力が実ったかどうかは、実際の運用成績が指数の上昇率を上回ったかどうかでみるべきだからだ。
2014年10月以降の実績を振り返ると、勝ったり負けたりしている。詳しくはGPIFがホームページで公表している2025年度の業務概況書の45ページを見てほしいが、12年間では4勝8敗。2026年4~6月期だけの分は計算されないが、順調に推移しているようである。
大切なのは資産配分! 年1回試したい「リバランス」の力
もっとも指数との対比は機関投資家の運用力を評価するためのものであり、個人の資産運用にはあまり関係がない。GPIFの運用から学ぶべきことは、もっと手前のこと、つまり、基本的な資産配分(基本ポートフォリオ)をきちんと定め、適宜、リバランスをするという考え方である。
GPIFは公的年金積立金全体を国内債券、国内株式、外国債券、外国株式に25%ずつ4等分して運用している。結果論からいえば金利上昇を受けて価格が下落中の国内債券の比率を減らし、内外の株式と円安メリットがある外国債の比率を上げていたほうがよかったかもしれないが、分散投資をするのはそもそも先行きが読めないからであって、結果を予想しながら配分を変えるのは、本来の姿ではない。
実際、市場で何が起きるか、正確な予測など誰にもできない。株価が急落して、相対的に価格が変動しにくい債券で助けられたという局面を迎える可能性もある。GPIFは制度的には資産配分比率を25%ずつから数パーセントずらすことを認められているが、「裏目に出るリスクがある」として基本的に比率を守っている。
もう一つは株式や債券の価格は変動するから、市場価格で測った資産配分比率はおのずとずれていく。そこで値上がりした資産を売却し、その代金で値下がりした資産を購入することで、最初に定めた資産配分比率に戻すのである。
GPIFは巨額の資産を運用しているから、このリバランスも毎月実施している。個人はそこまでの精密さを要求されているわけではない。年に1回、誕生日にやるといった考え方でもいいかもしれない。
ただ、少額投資非課税制度(NISA)を利用して資産運用をしていると、株式は非課税、債券は課税といった違いがあり、効率的なリバランスの障害になる。リバランスの売買が非課税投資枠を食ってしまうという問題もある。リバランスのための買いでもNISAの非課税投資枠を使うから、すでに枠いっぱいの投資をしていると、リバランスのための買いを入れる余地がなくなってしまうという意味だ。将来、リバランスすることを前提に投資をすると、最初から非課税枠に余裕を持たせておかなければいけないのである。
政府がNISA導入のモデルにした英国の個人貯蓄口座(ISA)は、株式も債券も預金も非課税だから、課税の有無を気にせずに資産を入れ替えることができる。NISA口座内での商品の乗り換えも自由だから、リバランスのために片方を売って他方を買っても、新たな非課税枠を使うわけではない。
NISAは現状、個人マネーを株式や投資信託に振り向けさせる税制にとどまっているが、個人の健全な資産運用に役立つ税制に衣替えしていく必要があるのではないか。
(文=前田昌孝)