最後の5つ目のポイントは、ロボアドの手数料についてです。ロボアドで使われるものと同等の投資信託のコストは0.1〜0.5%程度が一般的です。一方、ロボアドに運用のすべてを任せた場合の手数料は1%程度かかります。例えば、100万円の投資を考えた場合、1%の手数料は1万円に相当します。しかし、この手数料を支払うことで、日々の運用を自分で考える必要がなくなります。手数料よりも、自分で運用する手間を省くことで得られる利便性のほうが大きいと感じる人にとっては、ロボアドの利用は価値があるといえるでしょう。

このようにロボアド投資は、投資に時間と手間をかけたくない方や、比較的短期間(5〜10年程度)の間に使う予定があるが少しでもお金を増やしたいと考える方に向いています。反対に、自身で投資に時間と手間をかけられる方や、老後の資金など長期にわたる投資をしたい方、手数料などのコストを少しでも抑えたい方に向いている投資とはいえません。さらには、損を出さないことを第1の目的としたコツコツ型の投資に飽き足らず、ある程度のリスクをとりながら期待リターンの高い投資を楽しみたい方などにも向いていません。ロボアド投資は基本、リスクを抑えた運用であるため、ハイリスクハイリターンの投資のような、ワクワク感もスリルも少ないためです。

気になるのは、AI投資の今後です。投機的な短期の売買の場合には、すでにアルゴリズム取引(有利な価格を大きく変動させないために、コンピューターが自動的に株式売買注文のタイミングや数量を決めて注文を繰り返す取引のこと)などに、最先端の生成AIなどの技術を活かす研究が進められているようです。これが進めば、高価な高性能AIサービスを利用できる一握りの富裕層が、富を独占するようなことが起きるかもしれません。

これに対して長期投資の場合には、AI技術が実用的なレベルで普及するのにはまだまだ時間がかかりそうです。これは生成AIは計算や論理的思考に弱いという構造的な弱点があるためです。しかし、その弱点もいつかは解決されるでしょう。

バフェット氏が街頭で物乞いをする日が?

投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は「市場が効率的なら、私はいま街頭で物乞いをしているだろう」と語っています。いつか誰もが高性能AIを使って最適な投資をするようになれば、多くの投資家が平均的なリターンしか手に入れることができなくなる。バフェット氏が物乞いをする日が、本当にくるかもしれません。

投資手法のレクチャーや個別相談を行う中で、投資で失敗する人の共通点は相場を気にしすぎることだということがわかってきました。株価の変動に一喜一憂し、下落後に少し戻ったところで売ってしまう「やれやれ売り」は、多くの失敗者に見られる典型的な行動です。

私は2020年3月にコロナショックで株価が大暴落した際、ある真面目なロボアド事業者から以下のようなメールを受け取りました。

「先行きの見えない相場でこそ、持ち続けて『積立』を」

株を持ち続けると手数料が発生しないため、普通はこうしたアドバイスを証券会社から受け取ることはありません。でもロボアドは、積み立てて持ち続けることがメインのコンセプト。売るべきか持つべきか迷う心を、ロボアドが「持っていていいですよ」と優しく諭してくれたような気がした投資家は、少なくなかったと思います。

AIを駆使した最先端技術の塊のように見えるロボアドですが、その正体は少し古いAIのエキスパートシステムです。意外にもロボアドの真価が発揮されるのは、アナログ的で人間的なぬくもりを感じさせてくれる寄り添いの言葉で相場下落時の恐怖から救い出してもらうときかもしれません。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年5月3日号)の特集「AI時代の生き方大全」の一部を再編集したものです。

(構成=福光 恵 イラストレーション=タカセマサヒロ)
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